トップ » Ⅵ 究極の特許法入門 » 第4章 特許出願
第4章 特許出願
(1)特許請求の範囲について
秀才君「特許出願する場合は、どのような書類を用意する必要があるのでしょうか。」
若先生「特許出願は、細かく言うと、願書に明細書、特許請求の範囲、要約書および図面を添付して 行います。
ただし、発明の内容によっては、図面が不要な場合もあります。発明が機械器具などの物の
発明の場合には図面が必要となりますが、例えば、薬品や化学品の発明のように、図面に
基づいての説明がない場合には不要となります。
願書には、発明者と出願人の住所・氏名などを記載します。
明細書は、発明の内容を文章で説明するためのものであり、図面は、発明の内容を図示す
るものです。
そして、特許請求の範囲には、権利を主張したい内容を記載します。
老先生「このなかで一番重要なのが特許請求の範囲なんだな。なんたって、この特許請求の範囲の
記載によって権利範囲が決まってしまうんだから。」
カレン「じゃ、権利が欲しいところをいっぱい並べればいいの?」
老先生「そう言うと思ったよ。ところがその逆で、並べれば並べるほど権利範囲は狭くなっていくんだ
な。」
カレン「え! どうして?」
老先生「例えばだな。A、B、Cの3つの特徴を備えたボールペンを考えた場合、『A、B、Cの3つの構
成を備えたボールペン』と書いてしまうと、A、B、Cの3つの構成を備えものに限定されること
になり、A、Bの構成のみ備え、Cの構成を備えないものや、A、Cの構成のみ備え、Bの構
成を備えないものには権利が及ばないことになってしまうんだな。」
カレン「へえー、そうなんだ。じゃ、そういう場合はどうしたらいいの?」
若先生「例えば、求項1:Aの構成を備えたボールペン。求項2:更にBの構成を備えた請求項1に
記載のボールペン。請求項3:更にCの構成を備えた請求項1又は2に記載のボールペン。
のように書くと権利が広くなりますね。」
カレン「よく分からない・・・」
秀才君「私はよく分かりました。」
若先生「さすが秀才君。また、特徴的事項でないDの要件を加えて、『A、B、C、Dの4つの構成を備
えたボールペン』とすると、もっと権利範囲が狭くなってしまうことも理解できるでしょう。」
(2)明細書について
老先生「次は明細書じゃ。
特許請求の範囲には発明のエッセンスだけしか書かれないので、それだけ読んでみても、
発明の内容を十分に理解できない場合が多いんだな。そこで、発明の理解を助けるために、
明細書と図面が必要なんじゃ。
明細書は書式が決まっていて、発明の名称、技術分野、背景技術、発明が解決しようとする
課題、課題を解決するための手段、発明の効果、図面の簡単な説明、発明を実施するため
の形態、符号の説明の順に書くんじゃよ。」
カレン「ずいぶんいろんなことを書かせるのね。先生たちも大変ね。」
老先生「楽な仕事なんかあるもんか。」
秀才君「書く内容はなんとなくわかりましたが、もう少し詳しく説明していただけますか。」
若先生「分かりました。先ず、発明の名称は、『リンゴの皮むき器』とか、『麺類の製造方法』のよう
に、発明の内容を簡潔に表現したものとします。
技術分野欄には、その発明が属する技術分野を簡単に説明します。例えば、単に、『本発明
は、リンゴン皮むき機に関するものである。』とするだけでも構いません。
背景技術欄には、その発明の内容に関係する従来の技術を簡単に説明し、その問題点を指
摘します。例えば、『従来、リンゴの皮むき機としては、・・・の構成のものがあった。』、『しか
し、その構成の場合、・・・という問題があった。』といった形にします。
そして、その従来技術を開示している文献、例えば、特許公報の番号を記載します。」
秀才君「従来、似通ったものがなかった場合はどうするのですか?」
若先生「そういうケースはあまりないと思いますが、その場合は、例えば、『従来、・・・を自動的に行う
機器は提案されていなかった。』のように書けばよいのです。次に、発明が解決しようとする
課題を記載しますが、ここには、上で挙げた従来技術の問題点を解決することを課題としてい
ること記載します。
そして、続けて課題を解決するための手段を記載しますが、ここには大体、特許請求の範囲
と同様の内容を記載します。その後に発明の効果と図面の簡単な説明を記載し、また、発明
を実施するための形態について記載します。」
秀才君「『発明を実施するための形態』欄において、発明をどの程度詳細に説明する必要があるのでしょうか。」
若先生「基本的には、その業界の、ある程度技術的知識を有する人が読んで、その発明を実施する
ことができる程度に記載すればよく、一般の人が読んで理解できなくても構わないのです。
例えば、その業界特有の技術用語を使用しても構いません。」
秀才君「この『発明を実施するための形態』欄の記載で、特に注意することがありましたら教えてくだ
さい。」
若先生「特許法第2条に定義されているように、発明は技術的思想の創作であって、その技術的思
想を実現するための手段は1つとは限りません。
上に挙げたボールペンの例でいくと、その場合の技術的思想の骨子はAの構成を備えること
(請求項1)ですが、その他に、AとBを備える形態(請求項2)、AとCを備える形態(請求項
3)、AとBとCを備える形態(請求項3)が含まれます。
従って、これら3つの形態のすべてについて、明瞭に記載する必要があります。
AとBとCを備える形態について明記してない場合に、AとBとCを備える形態を請求項に記載
することはできません。」
カレン「ふーん、難しいな。そもそも技術的思想の創作ってなんだかわかんない。」
つづく